2012年7月24日火曜日

片手にも宇宙の欠片

小中学生は夏休みに入ってまだ間もない、街の中は大人と一緒よりも子供同士のグループで歩く姿がよく目に付いた日だった、それぞれが街へ繰り出し平日仕事のサラリーマンに混じって通りの雰囲気を若くする。

今日の午後の散歩は赤坂から舞鶴界隈をぐるりと楽しんだ、通りかかったのは福岡市少年科学文化会館の前、大人に引率された子供たちや、数人のグループ、中には1人でといった構成で施設周辺は騒がしいほど賑やかだった。

夏休みの子供たちにはぴったりな場所である、近くて、安くて、涼しくて、勉強にもなるし。

そのすぐ近くに30代半ばか後半あたりの父親らしき男性がスマホを弄りながら小学生(高学年)に見える女の子との2人でそこにいた、「プラネタリウム? 星なんか知らなくても大丈夫」、たぶんプラネタリウムを見たがっているのであろう女の子を諦めさせようとでもしているかのような言葉、そう言われて女の子は黙ったままだった。

男性はなおも手にしたスマホで何かをしていた。

結局それからどうなったのだろう、見せてあげると一緒に中に入ったのか、やっぱり諦めさせたのか、歩きながら聞こえたその一言、立ち止まることなく散歩から仕事場に戻る途中だったのでその後はどうなったのかは分からない。

もし、あのまま諦めさせたのであればとても残念なことだと思う、あのくらいの子供の脳は握りしめたスポンジを水の中で緩めるかの如く様々なことを貪欲に吸収する、だからこそ興味のある分野の知識をたくさん詰め込んで伸ばしてあげなくてはならない年頃なのだと思う。

確かに星のことは知らずとも普通に大人になって働いて一生を終えることはできるだろうけれど、知っていればそういった科学の分野を目指す原動力になり得るかもしれない、更には活躍して凄い人になれるかもしれないではないか。

あの男性が手にしていたスマホ、そのスマホの中の半導体に使われている金などの重い金属は、超新星や極超新星の爆発時に生成され宇宙にばら撒かれたものなのだ、人の想像力を超えた大爆発が宇宙で起こり、その時のとてつもない力で生まれた物質なのだ。

ほら、その男性も宇宙や星と無関係ではない、影響と恩恵を受けているのである。

2012年7月11日水曜日

鉄砲町

傘を畳んでしまえば突然の篠突く雨、極端な降り方を繰り返す雨の中、晴れていれば西の低い空はまだぼんやりと明るそうな時刻に飲みに出かけた。

友人と天神で待ち合わせをし、そこから今泉と接する大名の薄暗い飲み屋へ。

なるべく濡れぬようにと建物の中を通って警固公園を横切り、ビックカメラの脇を抜けたあたりで友人が立ち止まって後ろを振り返る、歩き始めてもう一度振り返る、気になるものでもあるのかと訊けば何か聞こえたような気がすると言う。

ほどなく目的の店に到着、席に着いて乾杯をするものの先ほどの何かが気になるらしく、胸騒ぎを覚えたのか部屋で留守番中の同居人(恋人)に電話を入れてました。

同居人は頭痛が酷いらしく薬を探している最中だったとか。

「○○君の薬、2つちょうだいね」と言われて焦ったのはその友人、以前、ピルケースから鎮痛剤を取り出し1回分=2錠を同居人に渡したことがあるけれど、今はそのピルケースの中には1日1錠の血圧の薬が約10日分入っているだけ、うっかり飲めば大変なことになるところ。

電話の後は落ち着いたようで2時間ほどを一緒に飲んで別れた。

ふと、実家近所のおばさんから聞いた体験談をぼんやりと思い出す、今のような賑やかな街ではなかった頃の大名の話である。

それは仕事帰りの暗い冬の夕方に、街灯の暗い側に沿って向かいから小柄な男が何度も会釈をしながら近付いてくるのだという、暗い側で、離れた街灯を背にしているので容姿は人影のようで判らないけれど、男であることははっきり判ったのだとか。

その男との距離がいよいよ狭くなったころ、交差する通りの街灯に照らされる辺りで暗い中に縮まって消えるように見えなくなったことに驚くと同時に、なんとも言えぬ胸騒ぎを覚え、なぜだか脳梗塞で倒れて入院中の父親のことが心配になり急いで病院に行ったという。

病室に入ると父親は驚いたような顔でこちらを見ていて、何事なのだと訊いてきたけれど、不思議な体験の話はせず、ちょっと仕事帰りに寄ってみたのだと答えたらしい。

しばらく話をした後で喉が渇いたからお茶をくれと父親が言うので、らく飲みで冷ました番茶を飲ませれば眠そうに目を閉じ・・・そのまま亡くなってしまったそうです。

一度だけ大きく溜息をついて。

あまりに呆気なく、穏やかで、危篤の気配すらなかったので家族の誰かが看取れたのは奇跡的なことだったとか。

その話をしてくれた人は「鉄砲町には幽霊がいる」と言っていた、不思議な体験談である。

それにしても何故「大名」ではなく、古い町名の「鉄砲町」なのだろう、そのあたりの事について訊いておけばよかったなと今更ながらそう思う。

そう、大名は鉄砲町、薬院町や薬研町、小姓町、馬場小鳥(ばばこがらす)、因幡町といった今はもう存在しない町に囲まれた夜が早い町だったのだ。